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其ノ1 新規ブックを開く 恍惚と不安

ハイ、第1回目を始めようと思います。緊張しますね。さて、何から話そうかな。
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とりあえず、Excelを開いてみましょうか。どの入門書も、初っぱなのテーマは「Excelを開く」ですし。
え?開き方がわからない?
大丈夫です。最初はみんな知らないんです。僕もつい最近まで「ファイル」と「フォルダ」のちがいがわかりませんでした。恥ずかしいことじゃないです。 いや、もしかしたら恥ずかしいことなのかもしれないけど、これから憶えていけば良いだけですから。

さて、開き方ですね。えーと、PCによって違うと思うのですが、たいていの場合、デスクトップに「Microsoft Office Excel」ってアイコン※1があるはずです。これをカチカチッとダブルクリック。
もしくは、「ホーム」→「すべてのプログラム」から探しましょう。たいてい「Microsoft」のフォルダの中にあると思います。
それでも見つからない、という方は…できる人にPCの前に来てもらって、教えてもらうのが一番です。百聞は一見にしかず。友達いない、っていう人は、友達、作るところから始めましょうか。

Microsoft Office Excelのアイコン
※1 Microsoft Office Excelのアイコン

開けました?

さて、ブックを開くとこんな画面※2↓が出ます。真っ白、タブラ・ラサですね。けれど、この画面、見てて不安にならないですか?

新規ブック 画面はExcel2007です
※2 新規ブック 画面はExcel2007です

例えば、こんなふうに※3すでに項目名が入っていたら、楽なんですよ。
「ああ、1列目には名前を入れるんだな」とか、「2列目は住所なんだな」とか、あらかじめわかるじゃないですか。派遣さんが派遣先に行くと、普通はこういうふうにあらかじめ道すじをつけたかたちで業務を渡されますよね。 まあ、最近は普通じゃない現場も多いらしいけど…
だけど、※2の状態、つまり新規で開いた直後って、とっかかりになるものが何もない。言ってみれば、「これから何をすべきか」は、わたしたちの頭の中にしかないわけですよ。

例
※3 例

でも、安心してください、不安なのが普通なんです(不安なのに安心して、っていうのも変だけど)。ゼロから表を設計するっていうのは、道のないところにレールを敷いていくようなもんです。 入門書だとここで、「では家計簿を作ってみましょう」となって、言われたとおりに手を動かしていけば家計簿はできあがるんだけど、いっつも家計簿が必要なわけじゃないし。 仕事先の要望に応じて、作らなきゃいけないものは変わってくる。Excelに慣れた人でも、一番頭を悩ますのが、立ち上げの瞬間、ゼロから設計するとき、なんです。失敗が起こりやすいところでもあります。 だけど、「与えられた表に、ただ入力するだけ」というレベルを脱却するには、ゼロから設計する練習をしておく必要があるだろうなー、と思うわけで。それに、こういうトレーニングを積んでおくと、例えば今後Access触ってみようかなーってときに活きてきたりします。

ではちょっと例題。

あなたは「顧客名簿をとりまとめてほしい」と頼まれました。この会社には5人の営業担当者がいて、彼らが抱えている顧客情報を本部で集約したい、と。あなたは本部の一員です。
不可欠な情報は、「氏名」「住所」「電話番号」。
依頼してきた上司の説明によると、今後告知物の発送などに活かしたい、とのことでした。

さてどうしましょうか。
顧客名簿の入力フォーマットを作って、各担当者に入力してもらい、メールで返送してもらう、ってフローで良いような気がする…。
項目は、言われたとおり「氏名」「住所」「電話番号」があればいっか※4

入力フォーマット あ、※3と同じだ…
※4 入力フォーマット あ、※3と同じだ…

んじゃ、担当者さんにメールを送信!あとは返信が来るのを待つだけ。楽勝、楽勝。

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担当の1人から返信が来ました。入力終わりました!ってメールにしては、タイミング早すぎる気がするな…ナニナニ?…
「試しにデータを入れてみたんだが、コレ、顧客名をあいうえお順に並べることができないんだけど…」
添付されたExcelをのぞくと、どうやらちゃんとデータは入れてくれてるみたいですが…昇順で並べ替えてみましょう。

氏名住所電話番号  →  氏名住所電話番号
本山正志福岡市×××0000-00-0000小島紘美福岡市○○○0000-00-0000
山下芳照福岡市△△△0000-00-0000山下芳照福岡市△△△0000-00-0000
小島紘美福岡市○○○0000-00-0000本山正志福岡市×××0000-00-0000
右:並べ替え実行後 ※氏名、住所などは実在の人物と一切関係ありません。

あれ?「こじま」「もとやま」「やました」の順番にならないといけないんだけど、おかしいな。

えーと、何でこういうことが起こるのかといいますと、漢字って読みをいくつか持っているじゃないですか。 「小島」の「小」なら「コ」と「ショウ」、「山」は「サン」「ヤマ」、「本」は「モト」「ホン」。 で、今回のケースの「氏名」のような、漢字の文字列の並び替えの際に、どの読みが使われているのかは、外からは判然としないんですよ。 例えば「山下」なら、「やました」って入力して変換したか、「さん」→変換+「げ」→変換としたか(←かなり特殊なやり方だけど) で変わってくるんだけど、すでに入力された「山下」って漢字からは、営業さんがどちらの仕方で入力したかって、一目ではわからない。
で、読みを判明させるには…、「ふりがな」ってヤツを使います。 ここで読みもコントロールできます。 だけど…、手順がけっこう面倒なんですよ。
それだったら、今問題になっているのは「あいうえお順に並べる」ってことなんだから、 「氏名」列のとなりに「氏名(カナ)」列を設けてやれば良いのです。 そうして、そこに読み仮名をカタカナで入力します。 そうすれば、「氏名(カナ)」を昇順で並べ替えることで、あいうえお順に並ぶハズ、ですよね。
そう、ここで大事なのは、 「漢字の読みを知る」ではなくて、「あいうえお順に並べる」なのでね。
※「ふりがな」については、「Excel ふりがな」で検索すれば、 他所の解説サイトに行き着きますよ。

氏名氏名(カナ)住所電話番号→ 氏名氏名(カナ)住所電話番号
本山正志モトヤママサシ福岡市×××0000-00-0000小島紘美コジマヒロミ福岡市○○○0000-00-0000
山下芳照ヤマシタヨシテル福岡市△△△0000-00-0000本山正志モトヤママサシ福岡市×××0000-00-0000
小島紘美コジマヒロミ福岡市○○○0000-00-0000山下芳照ヤマシタヨシテル福岡市△△△0000-00-0000

よしよし。これであいうえお順問題は解決。だけど…

「氏名(カナ)」列を追加したフォーマットを改めて担当者5人に送り直さないといけないなー。 もう入力し始めてるだろうから、担当さんに「え?入力し直すの?メンドクセエ」って言われるだろうなー。 怒られちゃう…。それもこれも自分の見通しが甘かったせいかなー、グスグス。
しょうがない、送り直すかー。
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おっと待てよ。これ以外にも不備がもしまた見つかったら、その度にフォーマット送り直し→「ハァ?メンドクセエ」になっちゃうな…。
再送するのはしょうがないけど、どうせ怒られるなら1回で済ませたい。ただちに送り直したいところをここはグッと我慢して、他にも不備がないか、見直してみましょうか。

まず、「住所」の手前に「郵便番号」列を追加しましょうか。発送に使うらしいから、あった方が便利だもんね。

あと、「入力日」って項目、あった方が良いと思うんですよ。営業さんがデータを入力した日付を入れる欄ね。 なぜかっていうと、営業さんとのやりとりっておそらく、1回限りのことではなくて、今後何回も発生すると思うんですよ。 そのときに、例えば2回目に送られたデータと1回目のデータを区別するものがないと、困った事態になると思いませんか?「あれ?山下さんって、前回送られてきたデータかな?それとも新規データかな?」みたいに。 もちろん、営業さんに「2回目以降は新規入力データだけ送ってきてください」と伝えて、ルール化しても良いんだけど、そして作業ルールっていうのは絶対決めた方が良いんだけど、でも、営業さんがルールをいつも守ってくれるとは限らないし。 情報管理するための項目として、「入力日」、必要かと。

氏名氏名(カナ)郵便番号住所電話番号入力日
本山正志モトヤママサシ000-0000福岡市×××0000-00-00002012/08/03
山下芳照ヤマシタヨシテル000-0000福岡市△△△0000-00-00002012/08/03
小島紘美コジマヒロミ000-0000福岡市○○○0000-00-00002012/08/03
古賀雅宏コガマサヒロ000-0000福岡市□□□0000-00-00002012/08/10

あと想定される事態は、何でしょうかね…
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もし顧客の中に、「山下芳照」さんが2人いたら、どうしましょうか?
同姓同名の人、いますもんね。もちろん住所や電話番号は異なるんだろうけど、パッと見わかりづらい。
そういうときのために、それぞれの山下さんに「顧客ID」というかたちで任意に数字を振って区別したら良いのではないか、と。

顧客ID氏名氏名(カナ)郵便番号住所電話番号入力日
A0001山下芳照ヤマシタヨシテル000-0000福岡市△△△0000-00-00002012/08/03
A0002山下芳照ヤマシタヨシテル000-0000福岡市◆◆◆0000-00-00002012/08/24

「顧客ID」を振る規則は、どうしましょうかね。
顧客どおしを区別するためだけのものだから、重複さえしなければOKなんだけど、でも何かルールがないとね。
入力した順序で連番にしようか。4ケタあれば良いかなー。3ケタで済むかなー。 この辺りを考えるのが設計の難しいところなんですが、今回は4ケタでいきましょうか。
あと、営業さん5人いるので、先頭に記号を付けましょうか。営業「A」さんなら「A0000」、「B」さんは「B0000」って感じで。
「顧客ID」は、営業さんに振ってもらっても良いしこちらで振っても良いんだけど、今回は、営業さんに振ってもらうようにしましょうか。

こんなところですかね、新しいフォーマット。

顧客ID氏名氏名(カナ)郵便番号住所電話番号入力日
       
       
顧客名簿フォーマット 改

もちろん、もっと時間をかければもっと完成度の高いものが作れるかもしれないけれども、仕事には締切ってモンがあるし。 それに、あまり複雑化した表を送っても、営業さんワケわかんなくなっちゃうしね。

ということで、新しいフォーマットを担当者さん達に送り直しました。 お詫びのTelもいれたら営業さん明らかに機嫌悪くて、ちょっぴり凹んだけど、まあしょうがない。 こういう、うまくいかなかった経験が、財産になるんですよ。 「失敗学」というのを提唱してる畑村洋太郎さんという方がいるのですが、彼によると、失敗には「よい失敗」「悪い失敗」がある、と。 失敗は全部悪いものなんじゃないかって考える人も多いかと思うのですが、そうじゃないんだ、と。 「隠蔽」とか「怠慢」は「悪い失敗」。 他方、世の中には当然未知の事態っていうものがあって、そういうのに遭遇した時って、どうしたって失敗は起こるじゃないですか。 だけど、失敗を通じて、未知に対する知識を得られるわけですよ。こういうのが「よい失敗」。 Excelだって同じです。ゼロから設計する、というのは、新しい冒険なわけで、だから、Try & Errorの連続です。 おそらく、Errorの数は、ゼロにはならないでしょう。 けれども、Errorの部分を少なくしていくには、経験を積むしかないのです。
今回の経験は苦い味でしたが、今後にとっての良薬にしていきたいですね。

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